MA70について思うこと

何年かぶりにスープラのミーティングに参加してきました。

そこで驚いたのが、まだMA70スープラで頑張っている方が結構いらっしゃること。

チューニングショップは元より、7M-GTEの整備自体してもらえる工場も殆どなくなって来ているのに、本当に頭が下がる思いです。

そこで、MA70生存者(笑)の皆さんと知識を共有する意味で、思うままに書いてみました。

1.30年前のエンジン

世の中に初めてM型と呼ばれる2000cc 6気筒エンジンが送り出されたのは1965年です。

トヨタはこれを元に10種類以上のSOHCエンジンを世に送り出し、皆さんもご存知のトヨタ2000GTでツインカム化、Mの前の数字を増やしながら、初代M型より21年の歳月をかけて排気量を3000ccまでアップしてきました。実に1.5倍の排気量アップです。

このM型エンジンと言うのは日本の自動車産業の成長と共に改良を繰り返しながら成長してきた古いタイプのエンジンと言ってもいいでしょう。

さて、7M-GTEと言うエンジンが世に送り出されたのは1986年にMA70スープラとMZ20ソアラに搭載されたものからになります。

今は2017年ですから30年以上前に発売されたエンジンです。

30年前の日本の技術力を思い出してみましょう。

携帯電話はなく、PCはフロッピーディスクで起動、そんな時代です。

製鉄材料にしても、工業用素材にしても現在のように高性能な素材はなく、30年前の当時の材料を使用して製作されています。

現在7M-GTEについて回る、「ガスケットが弱い」「水回りが弱い」などと言う悪い評判は、実はこの30年の歳月が原因なのです。

では話を現代に戻しましょう。

当時のスープラの価格は約500万、保証は5年または50000Kmだったかと思います。

それから30年の歳月を経て、そのまま生き残っているMA70はどうでしょう。

機械としての保証期限も20年以上前にとっくに切れ、賞味期限も切れた車。

オーナーさんの管理にもよりますが、恐らく整備諸元値を維持しているものは一台としてないでしょう。

まず、我々はその点をしっかりと認識すべきです。

2. トラブル

賞味期限が切れたMA70に待っている一番のトラブルはオーバーヒートです。

多くのMA70は10年程でシリンダーヘッドガスケットが抜け始めます。

ヒーターを使うとダッシュボードの裏からチョロチョロと水の流れる音が聞こえて来ます。

これが聞こえ始めたらガスケットが抜け始めています。

ラジエータのリザーバータンクが空っぽ、または減らなくなります。

冷却水に排気ガスが流れ込んで来るのでいつもオーバーヒート気味になります。

あるものは水路に詰まった錆でエンジンが均等に冷えなくなって来ます。

冷却水が流れない部分があるのでオーバーヒートと共にエンジンが不調になります。

冷却水を循環しているウォーターポンプが故障します。これももちろんオーバーヒートします。

始末の悪いことにこれらの状態でオーバーヒートを繰り返してしまうと、シリンダーヘッドやエンジンブロックが歪みます。

これでエンジンは終了です。

良く、7M-GTEに乗られている方から、「ガスケットが抜けたみたいだからガスケットを変えたいんです」と言うお話を聞きます。

歪んだエンジンブロックに歪んだシリンダーヘッド、詰まった水路のままでガスケットだけを組み直すとどうなるか?

考えればわかると思います。

これらを完全に直して、快調に乗り続けるためには、やはりエンジンを降ろし、完全に分解して清掃し、メーカーの基準値から外れる部品は修正してから組み直す以外に方法はありません。

これが2~30年の歳月の代償です。

さて、エンジンも信頼できる整備工場で組み直してもらいました。

実はこれだけでは終わりません。

内燃機屋さんでちゃんと修正したシリンダーヘッドやブロックを使ってどんなに正確に組み立てても、元々は2~30年物の中古部品の塊です。

思わぬ部分からオイルや水が滲んできます。

これらを根気良く潰して行って、やっと普通に乗れるようになります。

私の行くショップさんなどでも、「エンジンをオーバーホールしたのにオイルや水が漏れて来た!」とおっしゃっている方を見かけますが、それは筋が違います。

保証も賞味期限も切れて20年以上も経った車を分解したんですから当たり前の事なんです。

ガレージに行ったら、まず下回りを覗いて何か落ちてないか点検する。

オールドポルシェのオーナーも、ハコスカのオーナーも当たり前に行う儀式です。

少しでもおかしいと思ったら整備工場に持ち込む。そういう年代の車です。

夢も希望もないようなお話に聞こえるかもしれませんが、これが昭和62年式のMA70スープラを維持している私の現実です。

但し、その代償として得られるものは往年の名車で走り続けられる喜びです。

きちんと理解してあげればこれから10年でも20年でも付き合っていけると思います。

3.チューニングベースとしての7M-GTE

昔、とあるショップさんが7M-GTEのチューニングについて書かれているホームページがありました。

残念ながら今では閉鎖されてしまっているので、チューニングについても少し書いておきたいと思います。

ノーマルターボの加給圧は0.04Mpa(0.4キロ)程度です。

抜けの良いマフラーに交換するとブーストが少し上がり速くなります。

但し0.06Mpa(0.6キロ)で純正コンピューターの燃料マップを超えてしまい燃料をカットしてしまいますので注意が必要です。

7M-GTEのチューニングの最初のステップとしてはブーストアップ仕様があります。

まず、エンジンをオーバーホールする際にメタルガスケットを組んでもらいます。

メタルガスケットは精度に厳しいので、シリンダーヘッドとエンジンブロックをきちんと修正してもらう必要があります。

ターボのオーバーホールもしておきます。

マニュアルクラッチやオートマチックトランスミッションは状態によってオーバーホールまたは強化が必要です。

ここまでやると本格的にブーストアップが可能なエンジンになり、ブーストコントローラーを使って0.1Mpa(1キロ)以上まで加給圧を上げる事ができるようになります。

加給圧の上昇に伴って燃料が不足しますので、専門家の手によって燃料ポンプの強化やコンピューターなどを追加し、きちんとセッティングを行う必要があります。

3.0GTで300PS後半くらい、ターボAで400PSくらいまでは出せたかと思います。

この仕様の良いところは、チューニングカーにありがちな気難しさは一切なく、セル一発で始動し、全く普通に使えるところです。

7M-GTEのロングストロークが生み出す低回転のトルクは走りやすく、アクセルを踏めばポルシェやフェラーリにも付いて行ける、とても楽しい車になります。

私の普段乗り用のMA70エアロトップがこの仕様です。

レースのような使い方をしなければ10万キロは快調に走れます。

ここから先のステップはターボを交換するフルタービン仕様となります。

更にパワーが上がりますので、ピストン、コンロッドも強化品への交換が必要です。

エンジン以外にもインタークーラーやラジエーターなど、パワーに見合った性能のパーツが必要になります。

400ps以上を狙えるようになりますが、7M-GTE用のパーツはほぼ絶版ですので、殆どがワンオフ製作となり、1JZや2JZと比べて対費用効果が低いので、あまり現実的ではないと思います。

4. 最後に

自動車と言う機械はメーカーさんが気の遠くなるようなお金を使って開発し、チューナーさんも長い経験と失敗の繰り返しの中からチューニングを行っています。

ただ単に、ネットショッピングやオークションで手に入れた部品を経験も知識もなく取り付ければ、車が壊れるばかりではなく、下手をすれば他人を巻き込む事故にもなり兼ねません。

私がMA70と過ごしてきた長い間にも色々な方々を見てきました。

エンジンがトラブルを抱えた車をディーラーや整備工場に低予算で押し付けてまた壊れ、クレーマーと化す人。

見様見真似でパーツを取り付けたり、コンピューターを素人セッティングしたりしてエンジンを壊してしまう人。

結局その方々の多くは消えて行ってしまいました。

ひとつの物を、長く楽しく使い続けるためには、経験のある、信頼のおけるお店と上手にお付き合いして行けるかどうかが大切なのではないかと私は切に思います。

ところで、私はチューニングショップさんと作った、フルチューン、フル公認のMA70をもう1台持っています。

壊れるのを覚悟でショップさんと7M-GTEの限界を探る、純粋に実験用のMA70スープラです。

カム、ピストン、コンロッドを始め、ブロック以外は全て別の強化パーツが使われています。

正確に測った事はありませんがブースト0.2Mpa(2キロ)で大体700PSちょっとくらいでしょうか。

7MGTで700PS以上も出してしまうとエンジンは極端にメンテナンス周期が短くなってしまい、毎年エンジンを降ろしてのメンテナンスが必要になります。

足回りや、シャシー、ミッションなどもパワーに追いつかなくなるため、全て手を入れなくてはなりませんのでエンジン以外にもかなりの費用がかかります。

ここまでやる人は流石にもういないとは思いますが、MA70を頑張って維持する方々の励みになれば嬉しいと思い、今でも走れるようにしています。

時々、各地のドラッグレースに出没していますので、公道チューニングのGTRやRX-7をMA70スープラでやっつける姿をぜひ見て欲しいと思います。